研究概要 |
今年度は延辺朝鮮語の音声学的研究を中心的に行った。具体的には,延辺朝鮮語の母音体系について韓国語ソウル方言や慶尚道方言と比較しつつ分析(F1,F2,F3の測定等)を行った他,アクセント,イントネーションの特徴について,a)延辺朝鮮語の音韻論的解釈,b)現代中国語北京方言から延辺朝鮮語への借用語,c)中期朝鮮語との対応,という3つの観点から分析を行った。分析に際しては,延辺朝鮮語母語話者の発話を録音した音声ファイルを,Praat (Boersma & Weenink 2004)などの音声解析ソフトにより詳細に検討した。その結果,音韻論的にはLH, LLH, LLLH等と解釈される延辺朝鮮語アクセントが,実際の音声学的実現形に基づくと,弁別的なピッチアクセント(LH*)と句頭・句末のboundary tone (%LH, L%)によってのみ定義され,それ以外の音節に現れる音調は,それらの組み合わせにより自動的に割り当てられる音調であることを明らかにした。また現代北京方言からの借用語に現れるアクセントは,末尾2音節に現れる中国語声調の組み合わせにより決まり,その際に反映しているものは,次末音節と最終音節との間の渡り部分における音調の上昇/下降であることを解明した。更に,中期朝鮮語と延辺朝鮮語のアクセント・イントネーションを比較し,中期朝鮮語からどのような歴史的変遷を経て延辺朝鮮語アクセントが生じたか,考察を行った。 当初の計画と違い,今年度(育児休暇により中断する現時点まで)は延辺朝鮮語の語彙調査を幅広く行うことはできなかったが,この点については研究再開後,集中的に進めていく予定である。 今年度の研究成果は,日本音韻論学会における研究発表,韓国の学術誌Language Researchでの共著論文として発表済である他,現在単著論文としてもまとめている段階である。
|