研究概要 |
今年度は,当初の計画通り,延辺朝鮮語語彙調査を幅広く行った。主として5名のインフォーマントを対象に,延辺朝鮮語語彙(とりわけ固有語単純名詞・複合名詞,漢字語,英語・日本語からの借用語)について,アクセントを含むさまざまな情報の収集を行い,語彙リストにまとめた。また特に重要と思われる語彙については,リニアPCMレコーダーにより録音を行い,音声資料として今後も活用できるようにした。これらの調査により,韓国語ソウル方言や慶尚道方言などとは違う,延辺朝鮮語の特性(方言形,特殊な活用パターン,借用語アクセント規則など)を明らかにできただけでなく,同じ延辺朝鮮語話者の間でもかなりの個人差があることを明確に示すことができた。 一方,延辺朝鮮語のさまざまな音声学的現象について,分析を行った。主要8母音のF1,F2,F3を調べるため,各母音について最低4種類の語彙を用意し,計3回,話者に発音してもらった。アクセントの影響も考慮し,各母音とHigh/Lowの2つのトーンが組み合わさるよう,リストを工夫した。その結果,社会言語学研究において一般的に指摘されているのと同様,男性話者は女性話者よりも保守的な発音(より古い世代に見られる発音)をしていることが分かった。また若い世代では,後舌母音の/o/と中舌母音の/〓/が合流途上にあることも見いだされた。この点は,/o/と/u/が合流しつつあるソウル方言や,/〓/と/□/が合流している慶尚道方言などとは違っており,興味深い。 今年度の研究成果で公刊されたものはまだないが,調査結果に基づきまとめた延辺朝鮮語借用語に関する論文が,某雑誌に既に投稿済である。また音声分析の結果も,更なるデータを得た後に論文として発表できるよう,準備を進めている段階である。
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