研究概要 |
今年度は,当初の計画通り,延辺朝鮮語語彙調査を継続して行うと共に,延辺朝鮮語のさまざまな音声学的・音韻論的現象について,分析を行った。 語彙調査においては,これまでほとんど研究の行われていない現代日本語からの借用語や,延辺朝鮮語複合語を中心に,複数の話者から語彙収集を行った。現代日本語からの借用語は,1,500語程度収集してあり,現在分析を進めている。また延辺朝鮮語複合語については,固有語+固有語からなる約1,200語を対象に,話者37名分のデータを収集した。一般的に朝鮮語複合語では,後部要素の頭子音が平音(Lax)である場合,それが濃音(Tense)へと交替することがあるが,,その生起条件は音韻論的に予測できないとされている。しかし筆者は,収集したデータに基づき,延辺朝鮮語複合語においては,音節数・前部要素末子音・共起子音等,複数の音韻論的条件が濃音化に関わっていることを明らかにした。(国際学会(TEAL-7)にて発表済。) また頭子音(平音・激音・濃音)の発音パターンが,世代・性差などによりどのように異なるかを調べるため,1935~1992年生まれの話者61人を対象に,調査項目の録音を行い,Praat(Boersma & Weenink2011)を用いて音声学的分析を行った。その結果,VOTが若年層においては全体的に短くなっていること,FO値と頭子音との相関性において性差が見られることなどを明らかにした。(日本音声学会研究例会にて発表済。) 更に,延辺朝鮮語借用語(英語および植民地時代の日本語からの借用語)アクセントに関する研究を進め,借用モデルを構築し,論文にまとめた。この論文は,既に学術雑誌Natural Language & Linguistic Theoryでの公刊が決まっており(2012年度に公刊の見込),現在最終稿をまとめている段階である。
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