研究概要 |
本研究の目的は、言語理論研究から導き出される言語獲得に関する予測を、母語を獲得中の子どもへの実験を通して検討し、言語獲得機構および言語機能の属性の解明に貢献することにある。この目的のために、昨年度に引き続き、言語機能の属性との関連を仮定されている「コントロール」の獲得に焦点を当てた。 昨年度に実施した予備的実験調査の結果に基づき、3-5歳の日本語を母語とする子ども(日本語児)の付加コントロールに関する本実験を行った。実験では、主節主語によりコントロールされるPROを含む「~ながら」節を持つ文を用い、これを大人と同じように解釈できるかどうか、また、英語を母語とする子ども(英語児)に観察されるような、PROの先行詞を主節目的語とする誤りが見られるかどうかを確認した。また、被験児が音形に現れないPROと空代名詞を使い分けることができるのかを調査するため、空代名詞を含む「~時に」節を含む文も使用した。実験結果は、被験児が両付加節の空要素を正しく解釈し、テスト文を大人と同様に理解していることを示しており、4歳前後の日本語児がすでに大人と同質の付加コントロールに関する知識を身につけていることが明らかになった。この結果は、付加コントロールの獲得に言語機能の属性が関与する可能性を高めた。また、英語児においてなぜ学齢期前後まで付加コントロールの理解に困難が生じるかという問題については、本研究では英語児がある一定の期間日本語のような空主語を許しているという提案を検討した。 この研究成果は、平成22年9月に国際学会(GALANA 4, University of Toronto)やワークショップ(Linguistics Colloquy, University of Kansas)にて口頭発表し、意見交換を行った。そのうえで成果を論文にまとめた(現在専門ジャーナルに投稿中)。
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