本年度は、研究実施計画に沿って「述語形成における個体とイベント」研究会(I&E)の定期開催(今年度は計3回開催)を継続し、日本語・ドイツ語・フランス語における述語現象の記述的整理をすすめるとともに、日本独文学会秋季研究発表会にて、シンポジウム「「文意味構造」の新展開-ドイツ語学への、そしてその先への今日的展望-」(2009年10月18日於:名古屋市立大学)を開催し、成果の一部を報告した(発表標題「日本語における対格の生起と「関与」の概念-「被影響(affectedness)」をキーワードとして-」)。さらに、このシンポジウムでの成果をふまえ、「個体」と「できごと」との間の「被影響」関係性を広義の「所有」と位置づけることで、従来にはなかった角度から、より普遍性の高い理論構築をめざした共同研究プロジェクトを始動させることができたのは研究計画を越えた成果であった。また、新潟大学人文学部・愛媛大学法文学部人文学科との研究交流事業(言語学分野)の一環としての語彙意味論研究会(2010年2月17日於:新潟大学)の招聘を受け、進行中のプロジェクトの成果の一部を発表した(発表標題:「述語形成における個体とイベント-「見つけた」のは何か、「見つかった」のは誰か-」)。この発表では、英語のhave構文や日本語の受動詞(「見つかる」など)のふるまいを観察し、本研究が検証してきた「被影響」の概念を、より広義での「所有」と位置づけることで意味論的な形式化を試みたもので、イベントの内外に生起する個体の格表示に、類型論的に興味深い分類基準を見出し得る可能性を指摘したが、類型論的展開については、来年度以降の研究課題に連動するものである。なお、以上の成果は、2010年秋に論文化の予定である。
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