本年度は、研究実施計画に沿って、日本語における述語現象の記述的整備をさらにすすめるとともに、前年度の中間成果報告において新たに導入、提案した意味関数POSS分析の適用可能性の検証を多角的に進めることができた。具体的には、日本語動詞の自他交替現象や、英語のhave-使役構文などのデータに基づき、「個体と事象との関係を個体視点から捉えた述語関係」を個体が事象を「所有する」という「新しい<所有>概念」として形式化することで、項構造上は一見すると例外的に見られる現象全般に統一的な説明を与えることが可能になる点を中心に論じた。まず、[1] Kansai Lexicon Project研究会(2011年7月31日於:甲南大学)にて、研究報告を行い、当日、フロアから得たコメントにもとづく加筆・修正を加えたものを、[2] Annual Meeting of the LAGB (Linguistics Association of Great Britain;2011年9月7-10日、於:University of Manchester)にて発表した(発表題目:On affectedness and possession in the semantic structures of predicates in Japanese)。当日はフロアから多くのフィードバックが得られたが、そのなかには、今後の共同研究に発展する可能性をもつものもあり、今後は、本研究課題のテーマをさらに言語横断的に展開していきたい。特に、Ghent UniversityのLiliane Haegeman氏より、現在進行中の研究プロジェクト"Multiple subjects in Flemish : the external possessor"(フラマン語のおける重層主語:外的所有者)に、本発表の知見が有効ではないかとの助言を受け、現在も、継続的に情報交換中である。また、HPSG(主辞駆動句構造文法)の研究グループからも、共同研究の提案を受けており、今後、継続的に情報交換しつつ、あらたな成果発表の場を求めていくことになった。さらに、Nigel Vincent教授(語彙意味論)より、自然言語における形容詞の文法的ふるまいとその形式化に関する共同プロジェクトにおいて、日本語に関する記述、論証の部分で今後も一緒に研究を進めていく旨、オファーがあった。本研究課題の成果報告とともに、今後、新たな共同研究に参画する機会を得られたことは、当初の計画以上の大きな成果であった。
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