研究概要 |
本研究の目的は,同一個体群を複数年にわたって継続的に調査すること(縦断的調査)を通じ,特定の言語表現の理解とワーキングメモリ容量との間の因果関係を明らかにすることにある。 平成21年度は,縦断的調査の準備段階と位置付けられ,平成22年度より本格的に実施される縦断的調査の予備的検討及び準備が主となる取り組みであった。初年度である平成21年度には1)ワーキングメモリ容量測定のための非単語反復課題の作成,2)縦断的調査で用いる刺激の作成,3)予備調査を行った。また,予備調査の結果やこれまでに実施した調査結果のうち,述語前置とワーキングメモリ容量の影響に関するものを,日本言語学会第138回大会,電子情報通信学会・思考と言語研究会において発表した。なお,論文が,『電子情報通信学会技術報告(TL)』及び『九州大学言語学論集』に掲載された。これらの発表・論文によって得られた知見をまとめると次のようになる。まず,水本の一連の研究において,格助詞に基づく文理解を幼児ができない理由を,述語入力時までの格助詞の入力情報の保持の可否と捉えていた。この点に関し,格助詞の入力情報の保持負荷は生じさせないために述語を先行入力した環境を設定し,その状況でどのような言語理解が行われるかを調査したわけであるが,その結果,述語を先行入力し,格助詞の入力情報保持負荷を軽減することで,格助詞に基づく文の理解が可能となる幼児がいることを示すことができた。このことは,水本の一連の研究で論じている,格助詞に基づく文理解ができない原因が,述語入力時までの格助詞の入力情報の保持の可否によっているという主張を裏付けるものである。平成22年度以降は本格的な縦断的調査を実施し,格助詞に基づく文の理解を含めた様々な言語表現の理解とワーキングメモリ容量の因果関係の解明を行う。
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