研究概要 |
本研究の目的は,同一個体群を複数年にわたって継続的に調査すること(縦断的調査)を通じ,特定の言語表現の理解とワーキングメモリ容量との間の因果関係を明らかにすることにある。 平成22年度は,縦断的調査の第一段階と位置付けられ,一年目の縦断的調査を実施した。また,前年度の予備調査の結果やこれまでに実施した調査結果のうち,関係節文と分裂文に関するものを論文として発表した。この論文によって得られた知見をまとめると次のようになる。まず,水本の一連の研究において,格助詞に基づく文理解を幼児ができない理由を,述語入力時までの格助詞の入力情報の保持の可否と捉えていた。この点を検証するために,節内の格助詞のみが異なる関係節文・分裂文の組合せを設定し,その状況でどのような言語理解が行われるかを調査し,さらに,得られた結果とワーキングメモリ容量測定のためのテストとの関係を論じた。その結果,ワーキングメモリ容量がある程度以上である幼児のみが2種類の構文において格助詞に基づく文理解ができていることが明らかにされた。しかし,その一方,関係節文と分裂文で異なる選好性が存在することもまた示された。この選好性に関してはさらに複数項目の調査を実施し、検討を行わなければならない項目の一つであると認識している。平成23年度は二度目の縦断的調査を実施し,格助詞に基づく文の理解を含めた様々な言語表現の理解とワーキングメモリ容量の因果関係の解明を行う。
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