研究概要 |
本研究の目的は,同一個体群を複数年にわたって継続的に調査すること(縦断的調査)を通じ,特定の言語表現の理解とワーキングメモリ容量との間の因果関係を明らかにすることにある。 平成23年度は,二年目の縦断的調査を実施した。その結果,一年程度の経過でワーキングメモリ容量が著しく発達したという幼児が少数ながらいたこと,それらの幼児においては特定の言語表現の理解課題結果が向上していたことが確認された。ただし,あまりに対象となる幼児が少ないため,この結果を一般化することは難しいと思われる。そこで,今後さらに継続して研究を続ける,あるいは,課題自体に要するワーキングメモリ負荷をコントロールするような実験計画にすることなどが必要であると考えられる。また,一連のプロジェクトの中で実施した調査結果のうち,文脈による理解促進効果に関するものを論文として発表した。Otsu(1994)以来,単独では幼児が理解することの難しい文であっても,その文を使用する適切な文脈とともに呈示されることによって理解が促進されるということが知られるようになった(文脈による理解促進効果)。この効果に関して,異なる現象をもとに検討したところ,必ずしもすべての幼児に認められるわけではないこと,現象によっては促進効果を示さないことを分裂文を用いた実験により示した。この点は,幼児の文理解における情報処理の質的問題として今後さらに探求の余地があると思われる。
|