本研究の目的は、フランス語における不定名詞句に関わる用法のうち、不定冠詞の欠如も含め、とりわけ特殊な用法を研究対象とし、なぜそのような用法が可能であるかについて考察し、その理由を明らかにすることである。 平成21年度は、フランス語において通常は冠詞付きで現れると考えられる形容詞を伴う名詞句が、属詞位置に無冠詞で現れる例について考察を行い、拙論(2010):「フランス語における属詞位置に現れる形容詞付きの無冠詞名詞について」としてまとめた。フランス語においては属詞位置に職業や国籍を表す名詞が現れる場合Jean est medecin.のように無冠詞となるが、この名詞が形容詞によって修飾されるとJean est un bon medecin.のように通常不定冠詞を伴って現れる。ところが、Jetais si bon eleve.やIl etait petit garcon.のように形容詞付きの名詞が属詞位置に無冠詞で現れる例も見られる。このような無冠詞名詞句には二種類のものがあり、一つはJ'etais si bon eleve.のように形容詞の性質記述機能が前面に出ているもの、もう一つはIl etait petit garcon.のように形容詞と名詞によって一つのカテゴリーを形成しているものであり、この場合には全体で役割記述機能が働いている。 この考察において重要な点は、「性質記述機能」と「役割記述機能」という独自の視点を導入することにより冠詞が欠如している理由を明確に説明している点である。そして、その対象となっている無冠詞名詞句が本来であれば不定冠詞を伴うことが予想される環境に現れていることから必然的に不定名詞句との対比を前提としているため、今後の不定名詞句に関する研究の発展につながっていくものである。
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