本研究課題は近代の欧人基督教宣教師の著作における記述内容から、その中国語研究と異文化翻訳について考察したものである。 中国語研究に関しては、モリソン、メドハースト、ロプシャイトの中国語研究の特徴について考察した。ロプシャイトについては、北京官話が重視されつつあった時代下にむしろ言語(方言)の多様性或は地域性を重視していたこと、北京官話と広東語の双方を比較対象として相対的に捉えていたこと、英語語法に基づき全面的な品詞分類と分析を行ったこと、特に量詞の語法上の特徴を的確に捉えていたこと等を指摘した。また、モリソンとメドハーストの中国語会話教科書における記述を資料として、西洋人宣教師が記述した「官話」の実像の経年変化について考察を行い、その成果を国際シンポジウムで発表したのち、論文集に発表した。さらに、近代西洋人の中国語研究の代表的著作に記述された「官話」の定義の変遷を時系列にまとめて分析し、その概念の変遷を詳細に跡付けるとともに、19世紀における官話の地域差を反映するものとして、一連の各官話訳聖書の資料としての有用性を指摘した。 異文化翻訳に関しては、ケンブリッジ大学図書館での所蔵が発見された中国語訳聖書『四史攸編』稿本について、その他の稿本(大英図書館本、ローマ本など)と対照を行い、聖書の中国語訳の系譜に関する考察を行った。さらにモリソン訳聖書で使用された白話虚詞の特徴について論文にまとめ、国内学会では、モリソンの中国語訳聖書翻訳の過程について招待報告を行った。これら一連の研究の成果については後述の通りである。
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