本研究は膠着型言語に属する日本語と韓国語おける文末表現の言語変化を調査し、その語用論的機能拡張と当該言語の文法体系に与える影響の度合いについて文法化、対照言語学、社会言語学的な観点から解明することを目的としたものである。 本研究では日本語の文末形式のうち、日本語学習者にとって特に習得が難解と言われている「のだ」とそれに対応する韓国語の形式「kes-ita」を取り上げ、両形式の意味変化のメカニズムについて、文法化の知見を援用して考察した結果、「のだ」の方が「kes-ita」に比べて話し手のみならず、聞き手への指向性が高い文末形式として文法化が進んでいることを解明した。この成果を韓国日本学会(第80回大会)において口頭発表および、論文化を行った。また、この研究結果を踏まえて、『言語学と日本語教育6』の投稿論文には韓国人日本語学習者への「のだ」文の指導効果について教育的提言を行った。 次に、近年日韓両言語において、もともとは文中に置かれて後続文を修飾する連体形の形式が、文末において単独で用いられる現象に着目し、韓国語の「tanun」と日本語の「みたいな」を研究対象に対照分析を行った。分析に際しては日本語と韓国語の会話データとインターネットやブログの記事を用いて、両形式の語用論的機能拡張の度合いについて論じた。この研究成果を韓国連合学会(第8回)および、対照言語学若手の会のシンポジウムにおいて口頭発表を行い、理論的考察を加えたものを『歴史語用論入門』の書籍に執筆した。本研究を通して、日韓両言語における「文中形式」から「文末形式」への変換過程の生産性は、「文末」の位置が様々な語用論的意味変化の開始時点として重要な役割をしていることが示唆された。
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