1.チャム語の先行研究の蒐集を行った。チャム語とは、ベトナム南東の沿岸部およびカンボジア国境に居住するチャム族の言語で、エデ語と祖語を共有していると考えられている言語である。 既に現地で実施した予備調査では、語頭子音の分析に関して、先行研究と自己の観察の間に埋まらない溝が生じてきた。そこで、祖語を共有していると考えられるチャム語の音韻体系を、先行研究に当たることによって俯瞰してみることが主たる目的であった。文献研究および分析では、エデ語の音韻体系に明確な答えを出すプロセスで、語彙対照、音韻の対照研究などにより、チャム語との相関は予想以上に興味深かった。引き続きフォローしていく必要がありそうだ。 2.現地の言語学専門家とエデ語の文法項目や文情報について、意見交換を行った。エデ語は、ほかのオーストロネシア語族に属する言語と同様に接辞による語構成のしくみをもつ。しかし、他方でオーストロアジア語族に属するベトナム語のように文法的なふるまい自体は孤立語の性格を持っている。 そこで、今後の課題として、文をどのように分析していくのかという問題が出てきた。この周辺にある問題について、今次出張で意見交換した。結果として、語と語句、文の「仕分け」、文法的な区別については、エデ語周辺言語、とくにチャム語の先行研究が進んでいるので、これを参考にしながら、文法項目の設定を目指すこととなった。 また、エデ語母語話者に対してベトナム語文法の枠組みを説明する必要性を指摘された。これ調査対象者への、現地調査成果の還元のひとつとして考えるべき問題であり、今後の課題としたい。
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