1.現地のインフォーマント宅ではエデ語の音声調査を実施し、あわせて普通教育におけるエデ語の取り扱われ方、マスメディアでの少数民族語放送の現状について事情のヒアリングを行った。また、初等教育現場における民族語教育も観察することができた。これは、10年以上にわたり実施している「定点観測」の一環であるが、教授者の資質が低下していること、そもそも民族語教育に対する社会的要求に変化が生じていることが分かり、エデ語をはじめとする少数民族語の観察や記述が喫緊の課題であることが再確認できた。 2.エデ語はオーストロネシア語族に属する言語であるものの、接辞機能はかなり脱落しており、他方で孤立語的性質を持っている。また、音声面では単音節語がほとんどであるが、語頭子音の複雑さ(3重子音、有声・無声の対立、有気音・無気音の対立、入破音の存在)が極めてユニークであることが再確認できた。音素分類については、先行研究文献と今次観察結果の間に不一致を見出し、研究論文の準備が整った。また、昨年に引き続き、現地の言語学専門家とエデ語の文法項目や文情報について、意見交換を行った。また、エデ語との対照研究の観点から、ベトナム語の文情報や文法項目の設定についても意見を交換した。ベトナム語をはじめとして東南アジア大陸部で行われる孤立語の多くにおいて、西欧諸語でいう「形容詞・副詞」のふるまい方はかなり興味深く、一層の観察を期したい。なお、副産物として、ベトナム語文法に関する書籍を上梓することができた。
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