言葉を覚えたての幼児は、自分の祖父を「じい・じ」と呼ぶことはあっても「じ・じい」とは呼ばない。何故か?答えは大人たちが使う日本語の構造にありそうである。また幼児に向かってオノマトペ(擬音語・擬態語)を多用する。本研究ではマザリーズと呼ばれる親から子へのコミュニケーションにおいて表出する語彙『育児語』に焦点をあて、リズム構造や音象徴に支えられた大人たちの発話意図をfMRIにより追跡していくことが目的である。さらに、育児語を担う脳内基盤において予想される定量的な違い、すなわち育児経験の差や、男女差、個人差を調べるために、乳幼児の父母ならびに育児経験のない男女を対象に比較解析を進めた。個人差を調べるにあたり社交性・人格的温かさの心理指標である「外向性」を用いるが、理由は本申請者の予備調査から、マザリーズによる脳内活動と外向性得点との間に高い相関が見つかったからである。本年度は、まず被験者のリクルートを行った。被験者が親の場合、初産でかつ育児期間半年以上、一年未満の母親を対象に測定を行った。乳児にとってこの時期は「拡張期」および「喃語期」と呼ばれる時期に対応し、親のマザリーズに反応して声を発する。そのため親のマザリーズもこの時期に特に強化され、脳の活動も合わせて高くなると予想されるからである。親経験の無い女性の被験者はコントロール群として年齢を合わせてリクルートを行った。次に、fMRIを使った育児語の聴取による脳活動計測を行った。(i)育児語および、(ii)成人語(非育児語)の発話をそれぞれ聴取してもらい、そのとき得られた脳活動の差異を一般化線形モデルにより計算した。現在、この解析から育児語を知覚した時に有意に活動する部位を探っている。
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