本研究は、古代語の原因・理由表現、目的表現を中心とした従属節の変遷を、文体差に配慮して考察することを目的としている。 本年度は、従属節の変化と主節の変化との関連を追究し、ム形と無標形の問題の究明にとりかかる。その契機として、「る・らる」が可能を表す場合に着目して、主節の変化という観点から史的変遷を考察した。 まず、可能のうち、肯定文で用いられた例に限定して用例を収集し、あわせて先行研究の収集と検証を行った。肯定文で用いられた例に限定したのは、従来、中古には否定文で用いられた例しかなく、肯定文で用いられるようになるのは中世からという通説があるため、肯定文を分析することで変化が捉えやすいと予想したためである。 次に、用例を分析し、現実・非現実の観点から、I個別的事態の実現、II恒常的事態、III一般論、IV未実現の個別的事態、の4つのタイプに分類した。その結果、I~IIIが〈現実可能〉、IVが〈非現実可能〉と捉えられ、I・IIが中古、IIIが中世、IVが近世に現れることを示した。また、IVのタイプが出現した要因として、「已然形+ば」が仮定を表したり、動詞の終止形が単独で未来の用法を表したりするようになる変化と軌を一にし、非現実事態を表す形式がなくても非現実事態を表すことができるようになった点を挙げた。 以上の成果は、2012年5月20日に千葉大学で行われた日本語学会2012年度春季大会において口頭発表を行って示した。
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