本研究は、否定疑問形式に由来する日本語諸方言のモダリティ形式に焦点を当て、各形式の用法を包括的に記述し、それぞれを対照させることで「否定疑問形式の終助詞化」という文法化現象の一類型を提示しようとするものである。本研究では対象方言を長野市・大阪市・鳥取県米子市・高知市・宮崎市の各方言としている。これは、否定疑問形式由来のモダリティ形式の存在がすでに指摘されている方言であることによる。本研究では、各地点においてフィールドワークを実施し、それぞれの形式の記述を行う。また平行して、否定疑問文やモダリティに関する標準語研究の成果を整理し、対象方言以外の方言における否定疑問形式のふるまいについても情報収集を行う。 初年度の平成21年度は、大阪方言の終助詞コトナイカ・クナイカの意味用法の記述を行った。クナイカについては「関西若年層の用いる同意要求の文末形式クナイについて」と題した論文にまとめ、『日本語の研究』5巻4号に掲載された。 次に、大阪方言のコトナイカ・クナイカに関する記述研究を踏まえ、各地方言の記述のための共通調査票〈第一案〉を作成した。その共通調査票を用いて、鳥取県(平成21年12月)および宮崎県(平成22年1月)において予備調査を行い、当該の調査票の有用性を確認した。また同時に、関連する諸形式に関する情報を収集し、それぞれの方言に特化させた調査票の作成を進めた。平成22年度には、この調査表を用いて、鳥取県と宮崎県での臨地調査を行う予定である。
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