本研究は、否定疑問形式に由来する日本語諸方言のモダリティ形式に焦点を当て、各形式の用法を包括的に記述し、それぞれを対照させることで「否定疑問形式の終助詞化」という文法化現象の一類型を提示しようとするものである。本研究では対象を長野市・大阪市・鳥取県米子市・高知市・宮崎市の各方言としている。これは、否定疑問形式由来のモダリティ形式の存在がすでに指摘されている方言であることによる。本研究では、各地点においてフィールドワークを実施し、それぞれの形式の記述を行う。また並行して、否定疑問文やモダリティに関する標準語研究の成果を整理し、対象方言以外の方言における否定疑問形式のふるまいについても情報収集を行う。 4年計画の最終年度である平成24年度は、前年度に引き続き、取り立て否定形式の文法化現象と否定疑問形式の終助詞化との関連について考察を行った。そして、否定疑問形式の終助詞化には、それぞれの方言が、取り立て否定形式と単純否定形式の二つの否定形式を備えていることが前提となっている可能性を指摘した。また、取り立て否定疑問形式によって表される複数の用法のうちの、同意要求に特化する形で取り立て否定疑問形式の一部が析出され、終助詞として文法化してゆくという変化のプロセスを導き出した。 また、各地方言の文法記述の成果をもとに、現代日本語(標準語)および日本語諸方言の確認要求的表現について研究を進めている他の研究者と共同して、「同意要求」という文法的意味をどう規定するかということについて議論を深め、その成果を学会のパネルセッションで発表した(日本語文法学会第13回大会パネルセッション「確認要求的表現と対照方言学」三宅知宏、松丸真大、高木千恵)。
|