研究概要 |
本研究では,「書き言葉らしさ・話し言葉らしさ」を単に文字媒体,音声媒体に特徴的な表現と捉えず,選択体系機能言語理論に基づき,(1)テクストにおける情報の密度,(2)書き手を基準としたテクストで扱われる事象の具体性・一般性,(3)テクストに表される感情・意見・態度の主観性・客観性の3つの観点から計測した。平成21年度から22年度までに,(1)については「語彙密度分析」,(2)については「修辞ユニット分析」,(3)については「アプレイザル分析」という分析法を英語の先行研究を日本語に適用できるように再構築することで提案した。平成23年度の目的は分析法の改善,及び,研究成果の発信であり,研究成果を学術論文(査読有り3本,内1本は平成24年5月刊行予定),学会発表(国際,国内それぞれ1本)として発表した。また、言語資源『日本語アプレイザル評価表現辞書』を公開する予定である。日本語アプレイザル評価表現辞書では,(1)と(3)の手法を組み合わせて同じ価値基準を示す表現のうちどの表現が書き言葉らしいテクスト,もしくは,話し言葉らしいテクストで利用されることが多いかが分かるようになっている。例えば「引き起こす」と「惹起」では,「惹起」のほうが書き言葉らしいテクストで利用される傾向が強いことが『現代日本語書き言葉均衡コーパス』から計測した語彙密度として,分かるようになっている。辞書構築において,同義語の「かたさ」「やわらかさ」をどのように分析し,それをどう表現するかが問題となってきたが,この問題に対して本研究の成果がひとつの解決策として貢献できると考える。また,「惹起」を「引き起こす」に言い換えるなど専門性の高い日本語をより話し言葉らしい表現に言い換える際にも活用できるものと考える。本研究は本年度が最終年度であるが,今後は,書き言葉らしい表現によってしばしば表象される科学的テクストに特に焦点をあて,考案した分析法を用いた科学リテラシー力の育成とリスクコミュニケーションの改善に貢献できるよう努める。
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