研究概要 |
本研究は、20世紀後半の新聞記事を資料として、抽象的な事柄を表す外来語が基本語彙の仲間入りをしていく(=基本語化していく)過程を歴史的に記述し、その要因を明らかにすることを目指した。 具体的には、まず、(1)20世紀後半の新聞記事を電子化した通時的なコーパスを、拡充・整備する。次いで、(2)上記コーパスに語彙調査を施し、20世紀後半に基本語化したと考えられる外来語を広く収集する。続いて、(3)いくつかの抽象的な外来語をとりあげ、その基本語化とそれに伴う類義語体系の変化の具体的な様相を、上記コーパスを利用して、各語の意味・用法の側面から通時的・計量的に記述する。最後に、(4)それらの調査結果をもとに、抽象的な外来語の基本語化が、和語や漢語の類義語があるにもかかわらず、なぜ生じたのかを明らかにし、その過程を理論化する、ことを目的とした。 (1)については、1950年から2000年まで10年おきに各年36日分の記事を収めた通時的新聞コーパス(総文字数約1,700万字)を完成させた。(2)については、語彙調査を施し、20世紀後半に基本語化した語のリストを作成した。(3)については、リストから一定基準をみたす抽象的な外来語について、該当の語を含む類義語体系の量的な変化を調査し、三つのパターン、すなわち(a)外来語が顕著に増加して類義語を上回るもの、(b)外来語が増加はするものの、類義語を上回るには至らず、それに近づくもの、(c)外来語がさほど増加せず、優勢な類義語に及ぼないもの、があることを見出した。(4)については、個別の外来語・類義語の意味・用法について検討し、レジスターや年代の違いのほか、新聞が抽象的・一般的な外来語を必要とする背景に、それらが新聞の文章構成において「テクスト構成機能」と呼ばれる諸機能を果たしている可能性も提示した。
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