現在、語彙概念構造(以下、LCS)やGenerative Lexicon(以下、GL)を用いて数々な言語現象を説明する試みがなされているが、いずれも既存の理論・表記の枠内で行われているため、分析自体に二つの大きな問題点を孕んでいる。まず一点目は、操作上の問題点であり、二点自は、表記上の問題点である。前者は語形成操作と述部に関わる操作のギャップに言及するものであり、後者はTelicityと結果事象の性質に関わるものである。本研究の目的は、個々の言語現象に対する詳細な観察を通して、そのような現在の枠組みの不備を指摘、改良していくことにある。具体的には、語彙概念構造・事象構造・そして特により豊かな情報を記載することの出来るクオリア構造を有効活用することで、上述の問題点を説明できる新たな語彙意味理論の構築を目指す。これまでのところ、「語の意味をどう捉えるか」という最初の出発点に立ち戻り、WordNet分析に注自、引き続きその詳細を検討中である。WordNetは、語の意味を各語彙項自問の関係の中で表現しようとする点で、LCSやGLと一線を画すものである。今後は、WordNetによる語義の表現が、構成素分解的側面を持つLCSや語彙の創造的側面に関心を向けるGLに含まれる情報とどう関連・対応しているのか、またどういった側面で各々の分析がより高い説明力を発揮するのかを考察する。そのプロセスを経た上で、両者の利点を反映させた体系的なルールを明示し、より説得力のある提案を行いたいと考えている。
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