平成21年度は、英語の他動詞であるhave及びneedに関する理論的研究、およびそれに関係する理論的研究・獲得研究を概観するとともに、英語におけるhaveとneedの獲得過程に関する調査を開始した。先行研究における言語間変異に関する観察では、「他動詞haveに相当する動詞を持つ言語においてのみ他動詞needに相当する動詞が存在でき、他動詞needを持つにもかかわらず他動詞haveを持たない言語はない」という事実が明らかにされている。この観察に基づき、これまでにCHILDES databaseに収められている英語を母語とする幼児の自然発話10名分の予備的分析を行ったところ、英語の獲得において、「needがhaveよりも先に獲得されることはなく、したがって、他動詞needは獲得されているが他動詞haveは獲得されていないという中間段階は存在しない」という事実が明らかになってきた。本プロジェクトにおけるこの新たな発見は、先ほど述べた言語間変異に関する一般化が、「ヒトは遺伝により生得的に与えられた言語獲得のための仕組み(「普遍文法」)があり、その仕組みが言語の可能な異なり方を制約している」という生成文法の根本的仮説に対し、新たな証拠を与えるものである。この予備的分析の主な結果は、Sugisaki (2009) "The Acquisition of HAVE and NEED in English"(上智言語学会における招待講演)において公表した。引き続きデータ分析を続け、この証拠の妥当性をより高めていく予定である。
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