本年度は、英語の内包的他動詞needの獲得過程を、幼児発話コーパス(CHILDES)を用いてさらに詳細に調べ、needに相当する他動詞の言語間変異を司る生得的制約の解明に向けたさらなる研究を実施した。約20名のデータを分析した結果、「他動詞needが存在するためには他動詞haveが存在しなければならない」という生得的制約の存在に対し、より強力な証拠を得ることができた。その成果は論文としてすでにまとめられており、現在、専門誌への投稿に向けた最終的な確認の最中である。 また、本研究のテーマである、「幼児発話コーパスを用いた言語獲得研究」と関連する研究として、「英語・スペイン語獲得における断片的な答え」(コネチカット大学のWilliam Snyder氏との共同研究)および「日本語の格助詞及び後置詞の獲得」の2つの研究もあわせて実施した。幼児発話コーパスに含まれる英語・スペイン語の獲得データを分析した前者の研究では、wh疑問文に対する「答え」の持つ構造が、大人のものと同質であるか否かを分析した。幼児発話コーパスに含まれる日本語の獲得データを分析した後者の研究では、幼児が獲得最初期から格助詞と後置詞を区別することができるか否かを分析した。これらの研究はいずれも、「幼児は、ある性質を発話するようになった段階で、その性質に関して大人と同質の知識を持つ」ことを明らかにし、英語の内包的他動詞needの獲得に関する研究で得られた結論を強めることとなった。これらの研究の成果の一部は、2010年8月に開催されたGLOW in Asia VIIIおよび2010年11月に開催された第35回Boston University Conference on Language Developmentにおいて発表されるとともに、2010年11月に出版されたThe Proceedings of the Eleventh Tokyo Conference on Psycholinguisticsに論文として収められている。
|