21年度に引き続き、諸文献やインフォーマント調査等を通して言語データの収集を行うと同時に、21年度に導いた記述的一般化に対して理論的説明を与えること試みた。具体的には、ミニマリスト・プログラムに基づいて理論システムを精緻化し、日本語の例外的格標示構文に、CD指定部すなわちフェイズの「edge」への移動が関与するという仮説を提案した。 次に、上記の仮説から演繹的に導き出せる予測を列挙し、副詞、スクランブリング、イディオムなどをはじめとするさまざまなテストを用いて、当該仮説の検証を行った。また、21年度に収集したルーマニア語のデータに基づき、本研究の仮説がルーマニア語の例外的格標示構文の統語的特性について正しい予測を行うことも示した。さらに、従来の理論システムでは問題となるケースを幾つか提示し、本研究のような精緻化されたシステムを仮定すると、それらの問題が解決されることを明らかにした。なお、一見して本研究の反例となるルーマニア語のデータがあることも提示し、それに対して解決策を与えるという作業も行った。 さらに、ここまでのデータや議論に基づき、日本語やルーマニア語などの例外的格標示構文の統語的特性は、Chomsky(1999)の「フェイズ」に基づく計算体系の内部特性の帰結として導かれるということを示した。またこのことから、当該構文は、フェイズ理論に対して経験的支持を与えることができるということを明らかにした。本研究の主な成果としては、言語計算体系の複雑さを排除し、最適性を追求しようとする最新の理論研究(ミニマリスト・プログラム)の流れをさらに進めることに一歩貢献できたという点が挙げられる。
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