平成22年度は、前年度に引き続き、日本語学習者の言語運用データを収集するために、韓国において韓国・朝鮮語母語学習者のインタビュー及び作文データを収集した。 そのデータのうち、本年度は特に対話(インタビュー)のデータの中から、文末丁寧表現に注目し、分析を行った。その結果は「『んです』が多いんです:韓国人日本語学習者の文末丁寧表現の考察」(『大阪教育大学紀要第1部門人文科学』第59巻第2号、2011年)としてまとめた。本論文を通して、口語の文末表現に「んです」が多用される原因として、日本語学習者の言語処理ストラテジーが関係しているのではないかと指摘した。 日本語の丁寧形終止形は動詞の「ます」と形容詞・名詞等の「です」があり、それぞれに肯定形・否定形と過去・非過去時制があるために、学習者にとって複雑な体系となっている。習得過程にある学習者にとっては文法処理をするのに時間がかかる部分となるが、実際に発話する際にはそのための十分な時間が取れるとは限らない。一方、「んです」を使用すると品詞にかかわらず直前の用言を連体形にすれば良く、学習者にとっては言語処理の速度を上げることが可能となる。しかし、「んです」はモダリティーとして「です」「ます」には無い機能があるために、濫用すると誤用になってしまうのである。 言語習得においては学習・言語処理ストラテジーがどのように習得を推進し、また誤用を生み出すのかが重要な議論点になるが、上記の研究を通して日本語学習者の言語処理ストラテジーと誤用産出の関係の一端が明らかになった。
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