研究概要 |
本研究は、同じ英単語の学習・情報処理難易度が母語話者の場合も日本人学習者の場合も同じかどうかという語彙情報処理の母語話者-学習者連続性の問題に心理言語学的見地から取り組むものである。本研究計画の着想に重要な役割を果たした論文(計画立案時は投稿中)が国際学術誌に掲載された(Journal of Psycholinguistic Research,2009)。これは同じ語の母語話者語彙判定・音読潜時と学習者英日語彙翻訳正答率の比較を行った研究で、これにより情報処理の母語話者-学習者連続性を追究する意義が大きくなった。平成21年度の課題として、語彙判定・音読実験の実施、英語語彙翻訳誤反応の質的分析、の2つを挙げていたが、実験の準備を終えるまでに時間を要した。研究計画書では計画通りに進められなかった場合(特に語彙判定・音読実験)も想定していたので、実験実施を平成22年度とし、先に、母語話者-学習者連続性という概念的枠組みを応用・発展させるための研究を行った。平成21年度における主な成果は次の通りで、第35回全国英語教育学会(鳥取大学)にて研究発表を行った。TOEIC形式リスニング問題の正答者率、すなわちその問題の難易度を、その問題に使用されている発話の難易度と考えて発話構成語彙の特性に着目し分析したところ、発話構成語の平均母語話者語彙判定潜時と平均母語話者音読潜時が正答者率と有意な相関を持つことを見出した。これは次の3点を示唆する非常に重要な知見である。(1)母語話者にとっての情報処理難易度を表わす変数が日本人学習者にとっての情報処理難易度と相関を持つ(情報処理の母語話者-学習者連続性)、(2)語の情報処理と文・文章の情報処理とが連続的である、(3)リスニングとリーディングとの間にパラレリズムが見受けられる。この発見を報告する論文1編と関連論文1編の計2編が印刷中となっている。
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