研究概要 |
本研究は、同じ英単語の学習・情報処理難易度が母語話者の場合も日本人学習者の場合も同じかどうかという語彙情報処理の母語話者-学習者連続性の問題に心理言語学的見地から取り組むものである。課題は次の3点である。(1)語彙判定潜時と音読潜時を用いて語彙情報処理の母語話者-学習者連続性を検証する,(2)母語話者-学習者非連続的側面解明のため,英語借用語の情報処理について分析する,(3)母語話者-学習者非連続的側面解明のため,日本人学習者の英語語彙翻訳反応の質的分析を進める。平成23年度の成果は,前年度に実施した実験結果の分析を,借用語原語の情報処理という観点でさらに進め,学会で研究発表を行ったことと,翻訳誤反応の分析にかえ,音読誤反応の分析を行うことで,部分的に課題(3)にも取り組んだことである。借用語原語の分析において,まず,予測通り日本人学習者の語彙判定・音読潜時における借用語の優位性が示された。しかし母語話者に関しても借用語の容易性が示唆され,借用語の優位性が日本人特有の現象かどうかに疑問を投げかける結果を得た。次に,借用語とそうでない語の違いを語彙特性から探る分析で頻度,近傍語数,親密度,イメージ度,具象性,習得時期などに関し借用語の優位性が示された。借用されやすい語の傾向を示唆する。ただし借用語の不利な面も示された。音読誤反応の分布から,借用語はそうでない謡より,日本語として音読した,と判定された反応が多かった。これらの結果から,借用語の定義や,借用語の学習・情報処理における優位性の解釈,英語教育研究への示唆について論じることができる。音読誤反応分析からは,ローマ字知識と,英語における書字-音韻対応の知識の相互作用的影響が観測された。昨年度と今年度学会で発表してきた内容と音読誤反応分析の結果を総合して論文にまとめることができた。学術誌に投稿することとする。
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