本研究は鈴木佑治、田中茂範、霜崎實等によって開発され、先駆的な実践が行われてきた「プロジェクト発信型英語教育」の普及を一つの事例とし、英語教育アプローチの戦略的普及や汎用化のための具体的な制約や変数を議論し、最終的に「英語教育アプローチ普及論」と本研究が称するフレームワークの提示を試みるものである。 本年度は、当該研究の基礎となる理論考察として、プロジェクトという手法が大学英語教育においてどう機能するのか、その仕組みを描出することを試みた。プロジェクトの理念、背景、行為、教育論的特徴から、英語教育として具現化させる手続き論までの一連の項目を理論化し、これらをプロジェクトの「アプローチ」と「メソッド」等として提示することで、本研究独自の貢献とした。さらにこれらの構図に自身の経験と事例からの考察を加えることで、手法としてのプロジェクトの有効性とその限界について具体的に検討した。 「プロジェクト発信型英語教育」構図とは、理念、方法論、プログラム、教授法、教材、評価といった多岐に亘る一連のサイクルであり、本年度はさらに、この理論化に基づいた上で、特にロジェクトを中心とした「アプローチ」、「メソッド」、「デザイン」の箇所に記述の的を絞り、試論の提示を試みた。具体的にはプロジェクト発信型英語教育の具体的実践の記述から、英語教育アプローチを汎用化させる上での要素を抽出し、そのサイクルと「型」をモデル化し、「メソッドの一貫性とデザインの多様性」という論点を中心とした論考を展開した。最終的にはこれらを英語教育アプローチとして一般化する必要性を説き、英語教育の新たな研究分野としての可能性を示した。 なお一連の考察については、提言として一定の妥当性を持つものと評価できると思われる一方で、これらは決して理論的想定の域を出るものではない。当論考にいかにして実証性を伴わせられるかが今後の課題となるだろう。
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