本研究が課題としてきたのは、室町幕府の外交儀礼と唐物文化に関する基礎的な蒐集と検討とである。研究の成果は、学術論文「室町日本の外交と国家」(『日本史研究』600号、2012年)などのほか、一般向けの著書『偽りの外交使節――室町時代の日朝関係』(2012年)および同『"日本国王"と勘合貿易』(2013年)に結実し、その成果を広く江湖に問うことができたと自負している。いずれも、狭義の外交史に閉じこもるものではなく、表象文化論や政治史、流通経済史などへの架橋を積極的に試みた論著である。 研究課題の前者(外交儀礼論)について具体的に述べれば、足利義満以下の室町殿(幕府首長)が行なった外交儀礼を、関連史料の厳密なテキストクリティークや、朝鮮・琉球など他国における外交儀礼との比較検討をもとに、相当程度復元することができたと考えている。ただし、前後の時代における東アジア(東ユーラシア)地域の外交儀礼との比較は不十分に終わっており、これが次なる課題となる。 また、研究課題の後者(唐物の政治文化論)に関しては、生糸や絹織物、書画典籍といった文献史料中の唐物を蒐集したほか、それぞれのもっていた文化的表象性を剔抉することを試みた。最終段階で本格的な検討に入ることができた新しい題材に、「生きた唐物」というべき動植物の輸出入という問題がある。これは、ときに書画典籍以上に雄弁に、国際関係上の優位劣位を物語るアイコンとして位置づけられていた。その背後にある中国古典の「謂れ」を探り当て、研究を積み重ねていくことが今後必須の課題となるだろう。 以上、本研究における外交儀礼論と唐物論とにより、外交史と国内史とを単に短絡させるのでも、またまったく異質のものとして峻別するのでもなく、両者の接点を冷静に見通す縁が得られたといえるのではなかろうか。
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