第一に、昨年度から引き続き、武蔵国横見郡の地域社会構造と、そこにおけるえた身分の集団について、埼玉県立文書館収蔵「鈴木家文書」「新井家文書」等を利用して分析を進めた。具体的には横見郡(下吉見領)の地形・治水・水利・新田開発、えた集団の土地所持・立地、土豪・地主との関係、えた身分のテリトリーである職場の領域構造と形成過程、市場、割元・触元制、陣屋・牢屋、宗教施設等にみる地域社会構造について検討し、その成果を論文として発表した(2013年4月付)。異なる社会集団の「複合」する局面に注目する視角を継承して地域社会構造を総合的に捉え、関東の「領」とえた身分の「職場」とを統一的に論じようとし、地域比較史的な観点から「かわた村と地域社会」について新たな論点や局面を見出そうとした。 第二に、南関東から北関東へ進出・展開した戦国大名北条氏の領国における郷村のあり方、検地書出等の文書の残り方と支配の特質等を検討し、隣接する武田氏・今川氏および北関東の小大名・結城氏等と比較検討した。2013年度に発表予定の論文において、この成果を盛り込む予定である。 第三に、「大山喬平氏の中世社会史論に学ぶ」というワークショップでコメントを依頼された機会に、信州・近江・下野等の中世末における郷と村の実態を検討し、それらを近世から遡って考える方法について考察した。 第四に、「「近世化」論と日本」というシンポジウムで報告を求められた機会に、中国・朝鮮史の小農社会論を日本史の立場でどう受け止めるかという観点から、小農自立論を再検討した。 第五に、昨年度、江戸・仙台・会津若松・飯田など東国における城下町とそこを中心とする流通構造、商人のありように関する研究史上の論点を整理する学会報告を行ったが、その内容を再構成して論文として公表した。
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