本年度は、これまで確認できなかった未刊行史料や、近年の学術雑誌に掲載された史料紹介・新たに刊行された史料集を中心に、史料検索を進めた。さらに、これまでに通覧した史料集(『鎌倉遺文』・『南北朝遺文』・自治体史など)の再確認を行った。これらの作業によって、鎌倉期の地頭請所・下地中分関係史料は、ほぼ網羅できた。南北朝時代についても、『南北朝遺文』既刊の地域については、地頭請所・下地中分関係史料をほぼ網羅できたと考える。 これらの史料を基礎として地頭請所関係の幕府法令と幕府の裁許(裁判判決)を分析した結果、幕府の地頭請所保護政策には、複数の時間的基準(たとえば○○年以前に設定された請所は保護する、などの趣旨)があったことを確認した。これらの時間的基準の存在自体は、先行研究でも指摘されていた。しかし、それらの基準設定の背景・意味、基準の運用のあり方については、踏み込んだ分析を加える必要がある。 そこで、本研究では、請所が設定された所領の本所・地域を考慮して、上記の検討課題に分析を加えた。その結果、災害・戦乱からの復興と関わる地頭請所設定の事例を複数確認した。そして、鎌倉幕府の地頭請所政策も、社会の危機や公武両政権の国衙領政策などを踏まえて形成された可能性を見いだした。今後、上記の見通しの当否を確かめ、論文作成を進めていく。さらに、下地中分の実態研究として、地頭職の下地分割事例として知られる安芸国三入荘の現地調査を行い、下地分割後の地頭支配の実態を明らかにする見通しを得た。 また、地頭請所・下地中分の淵源については、現在の中世荘園制研究の水準を踏まえた上で、武士団(≒在地領主)と12~13世紀の国衙領請負や中世荘園形成の関係を把握しなおす必要性を見いだした。この問題を検討する前提として、武士団と地域社会の関係を具体的に明らかにする作業に取り組み、論文・編著書として発表した。
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