本年度は6月と11月に、南欧文書館における史料調査をおこなった。6月分に関しては前年度より継続しているポルトガルの文書館史料の調査と蒐集であり、11月は新規開拓として主にスペインの文書館、さらにはこれまで未調査であったポルトガル国立文書館の漢籍史料調査に努めた。 前年度までの研究は、主に16世紀~17世紀までのマカオ=日本間でおこなわれた南蛮貿易の構造解明を、欧文史料を使用しておこなうものであったが、本年度より、日本との貿易終焉後のマカオ社会の政治・経済動向がわかる漢籍史料の分析を、他の研究者らとの共同研究により着手した。これにより、18世紀半ばまで清朝の唯一の対外貿易港で、外国人居留地であったマカオが、どのようにその存在を保ち続けたかに光が当てられるようになった。その成果は論文「ポルトガル領事のみた幕末長崎-大洲藩船いろは丸のポルトガル語売買契約書を手がかりに-」で発表されている。 そのほかこれらの史料調査にもとづく研究報告、招待講演を数々の場所でおこなった。これまでの東アジアの国際関係の研究では、マカオは、広州や香港の陰に隠れ、その重要性が十分に吟味されてこなかったが、研究代表者によるここ数年来の問題提起により、世界史叢書等でもマカオが重要課題として論文のテーマに選択されるようになった。 また本年は、平成21年度の本科研の研究成果も含め、これまでの研究をまとめた研究代表者の単著『商人と宣教師南蛮貿易の世界』(東京大学出版会刊)が刊行された。
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