本年度は主に、研究課題のひとつである長崎とマカオを繋ぐ文化的紐帯の解明に取り組んだ。第一には、長崎を拠点に日本全国で活動したイエズス会、フランシスコ会、ドミニコ会の布教活動の実態を明らかにするべく、長崎県、熊本県でのフィールドワークと文献史料の開拓をおこなった。その結果、現在は主に人類学の考察対象であるカクレキリシタンに残る様々な習俗の地域的特徴は、16・17世紀の布教手段の相違に起因するものである可能性が導き出された。『文学』(岩波書店)・『長崎県内の多様な集落が形成する文化的景観保存調査報告書』等に掲載された本説は長崎県でキリシタン研究に取り組む研究者らにも広く支持され、今後のキリシタン研究における重要な問題として共有されることになった。 また代表者は従来、南蛮貿易のアジア間貿易としての特徴に重点を置いた研究をおこなってきたが、2012年4月~5月、リスボンにおいてインド航路の沈没船遺物調査をおこなったことにより、ユーロ=アジア貿易に関し、新たな認識を得ることができた。沈没船マルティルス号の沈没地点からは、多種の東洋陶磁が発見されており、世界的に着目されているスペイン・ポルトガルのアジア交易の取引商品の詳細解明において、非常に有益な資料である。日本ではフィリピン諸島付近で引き揚げられたスペインのガレオン船の調査実績がよく知られているが、リスボンのマルティルス号については、ほとんど知られていなかった。代表者は、2011年の貿易陶磁研究会での大会報告をもとに、さらに2012年の調査結果を加えて、『貿易陶磁研究』に一稿を発表した。 同様に、同調査で収集した史資料をもとに、『歴史と地理 日本史の研究』、『日本の世界遺産 石見銀山』などに論文、小論等を執筆し、調査結果の開示に務めた。
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