本研究では、現在の大衆文化の創造にあって重要な存在であった「紙芝居」を主たる研究対象とし、これまで実施されてこなかった精緻な資料学的なアプローチを用いて、今後の紙芝居研究の基礎の構築を目指している。 本年度は、まず、現在も紙芝居師として活躍されている梅田佳声氏のご協力を仰ぎ、ご自宅および下町風俗資料館に所蔵されている肉筆紙芝居全点調査を実施した。のべ5日間の調査によって、350タイトルの貴重な資料の存在があきらかになった。ここでは、タイトル・寸法・枚数に加えて、肉筆紙芝居の表面・裏面に記された紙芝居師や貸出元による印や書き込みなど、重要な書誌的データも同時に採取し、これをもとに整理・分析を進めることができた。 また、東京都を中心とした肉筆紙芝居の残存状況調査の過程において、(1)東北地方の古書店より4タイトル(18巻・198点)、(2)東京都では最高齢の現役紙芝居師・永田為春氏より貴重な肉筆紙芝居を3タイトル(20巻・211点)、それぞれ寄贈・購入することができた。(1)に関しては、全巻揃いではないものの各地の紙芝居師にまわり持ちで貸し出されていた当時の確認印などがそのまま残されており、肉筆紙芝居の貸出システム解明に関わる手掛かりとなり、(2)に関しては、全巻が揃っている上、裏面には実際に永田氏が口演する際に活用した台詞回しなどに関する書き込みが多数あり、紙芝居師の創意工夫の変遷を知ることができるなど、大変に貴重な資料であった。 なお、これらの研究を学術団体である「コンテンツ文化史学会」の部会活動として設定し、学会の発行する『コンテンツ文化史研究』第2号において研究成果の一部を公開した。
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