本研究では、現在の大衆文化の創造にあって重要な存在であった「紙芝居」を主たる研究対象とし、これまで実施されてこなかった精緻な資料学的なアプローチを用いて、今後の紙芝居研究の基礎の構築を目指している。 本年度は、昨年度に実施した基礎的データ収集・整理の成果をもとに、紙芝居師による実演自体のデジタル・アーカイブを実践し、その成果をデジタル・デバイスに収納し、容易に再生・再現ができるシステムの開発を目指した。 昨年度、東京都最高齢の紙芝居師・永田為春氏より購入した貴重な肉筆紙芝居のうち、絵・内容ともに優れている『殺人鬼』(全9巻、各巻11枚)を選び、紙芝居師がどのように原作を解釈し、自分にあった内容に改変したのち、上演していくのかという本研究の根幹的な課題の解明について、本研究にご協力いただいている現役の紙芝居師・梅田佳声氏に依頼して、それら一連のプロセスを再現していただいき、また、同氏の指導・監修のもと、その一連の過程も正確に記録した。さらに梅田氏には実際に観客の前で肉筆紙芝居『殺人鬼』を実演していただき、その様子もデジタルビデオカメラで撮影・記録した。 上記で得られたデジタル・データを集積・統合した上で、デジタル・デバイス(iPadなど)に収納し、紙芝居師が演じる微妙な間や演じ分けという精緻な部分まで再現ができるシステムを開発した。これによって、「紙芝居」を用いて「紙芝居師」が工夫をして上演をするプロセスで完成する「紙芝居文化」自体のデジタル・アーカイブを実践した。
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