本研究は室町期に新たに形成された禅院領の事例研究であると同時に、禅院領形成の動きに連動して再建・再編された、中世前期以来の荘園の展開についても明らかにするものである。 現在、京都大学総合博物館が所蔵する西山地蔵院文書は、室町幕府執事として三代将軍義満の初政を支えた細川頼之が1368年に創建した禅院の文書であり、同寺が数カ国の守護を兼任した細川家の菩提寺であったことから「守護方御寺」とも呼ばれ、細川家領国を中心に安定した寺領経営を行っていた。加えてこのような細川家の後ろ盾を頼りに、他の寺社本所も請負を通じて同寺に細川領国内の荘園経営を求めており、西山地蔵院は守護の私的な菩提寺という性格に加え、荘園支配の回復を試みる京の寺社本所と、地方支配を握る武家細川家を仲介する役割を果たしていた。すなわち、同寺は地方支配をめぐる公武交渉の拠点であり、同文書の分析からは中世前期に成立した荘園が室町期にいかに展開したかについても明らかにできる。 以上の本文書群を分析するに準備段階として、平成21年度は、同文書の整理・分析を集中的に行い、作業を効率的に進めるために、同文書をデジタル撮影し、パソコンで画像を整理した。 そのデータをもとに、本年度はあわせて10回の史料輪読会を有志とのあいだで行い、また上半期には、東京大学史料編纂所への文書調査を行い、同じく夏期には阿波国勝浦荘の現地踏査も敢行した。その結果、文書名の確定や年次比定などが大幅に進むことになった。現在、翻刻作業も約八割が完了している。
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