本年度は、(1)公娼制度の具体的ありようを明らかにするため、前年度にひきつづき金沢をフィールドに地域の政治・経済・文化的背景を踏まえた「遊廓社会」の構造分析を行った。その成果の一部は、遊廓社会研究会で報告し、来年度刊行の『遊廓社会論集』(仮)(吉川弘文館)に向けて原稿化の作業を行っている。 (2)近世と近代の公娼制度の歴史的特質に大きく関係する明治5年の太政官布告第295号(「芸娼妓解放令」)の歴史的意義について、明治維新期の一連の政策のなかに「芸娼妓解放令」を位置づけるために、東京都公文書館で芸娼妓解放令関係の史料収集を行うとともに、同史料の翻刻作業を進めている。これは、公娼制度の歴史的変容を解明し、日本近代都市史研究を媒介として買売春のありようを規定する近代日本社会の歴史的特質を理解する本研究の要諦となるはずである。 並行して、(3)沖縄県の「芸娼妓解放令」関係史料の調査を実施した。沖縄県における「芸娼妓解放令」の公布は、琉球処分から沖縄県設置をへたのちの明治15年のことである。他県では先行して「芸娼妓解放令」の公布をへて多くの県で貸座敷制度という近代的な公娼制度への再編がはかられていたが、そうした経緯をふまえて、「芸娼妓解放令」による沖縄県の買売春制度の近代化の過程はどのような特徴をおびるのかを検討したいと考えている。また、沖縄県の買売春政策の特質を明らかにすることは、明治政府の沖縄政策を考えるうえでも重要な論点を提示できると思われる。
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