平成21年度は、所期の目的である、古代・中世転換期における神社神職の動向の解明を図るため、当該期の文献史料を収集することと、さらにその基礎的分析を行うことに重点に置いた計画を策定した。当該年度において、この計画は次の通りの成果を得ることができた。 (1)『長秋記』や『中右記』など、平安時代後期を中心とする貴族の日記から、神事における所作や、それ以外の局面での貴族との交流など、当時の神職の活動が分かる記事を網羅的に抽出・整理し、それらの基礎的な分析を行った。この作業は平成22年度も継続し、その上で所期の目的を達成するように努める予定だが、現段階においても、天皇の神社行幸の際には、仏僧組織が組織面・経済面で実質的な中枢をしめる神社であっても、神事そのものの際には俗官が対応することが原則と見なせることが把握できた。また、職務としての神社内の状況の報告に際しては、その方法について一定の原則が存在すること、等の点を理解することができた。このことは、当時における神道と仏教との祭祀儀礼面での関係や、貴族社会からみた神社の公的性などを見極めるための手がかりにもなるものと意義づけている。さらに、神職と貴族とのその他の関係についても、祈祷などを通した交流の存在が把握でき、その類型化への見通しが立った。 (2)(1)の作業と平行して、日記以外の文献史料の収集も、いくつかの研究機関等への現地調査や、写真紙焼の取得等をしつつ実施した。この収集作業により、神職の動向に関する基礎的史料の充実を図ることができ、今後の神職の儀礼面や思想面での発展関係を知るための基盤を構築することができた。
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