本研究は、近代国家とりわけ明治国家の建設過程における内務省衛生行政の位置づけ及びその構造を検証することを目的とするものであり、その際、初代衛生局長で、近代衛生行政をわが国に紹介したことで知られる長與專齋の衛生行政論を手がかりとするものであった。長與はドイツの地にて近代国家における衛生行政の必要性に気付いたことから、ドイツの衛生行政との関わりも視野に入れながら進めてきた。 本年度はまず、昨年度、地方衛生行政と長與についての研究を進める中で、過去に公表したものを出版する機会を得たことから、同作業を継続し、出版することができた。ここでは近代日本の内務省衛生行政を医療・衛生行政の形成という視点でまとめる作業の一環として、過去の論考に加筆修正を加え、提出することとなった。過去に執筆したものではあったが、今回の出版で、同論考に関する今日的意義を改めて評価するという貴重な機会ともなった。 また本年度は、内務省や長與の中での「衛生工事」の位置づけに関して接近を試みた。「衛生工事」は恒久的な視点からの伝染病対策であり、長與も比較的早くから同工事の必要性を認めていた。長與と「衛生工事」に関して考察を加える中で、その前提となる長與の近代衛生行政論を評価する必要性が認められたことから、ドイツ衛生行政システムと長與について再度、考察の意義について確認を行い、さらに長與の近代衛生行政論の一端について、医学等学術の「政務的運用」という視点から接近を試みることもできた。
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