本年度は研究三ヵ年の初年度にあたり、研究を推進していくための研究環境整備と基礎データ収集としての文献史資料調査・聞き取り調査を重点的に行った。先行研究及び関連参考文献のリストアップ化とそのデータ化などを行うと同時に、研究推進上、必要と考えられる情報機器などを揃えた。 研究計画に沿い、文献資料調査を行ったが、特筆できる成果は、京都の画廊が所蔵する近代上方歌舞伎役者の書簡資料の調査を行えたことである。とりわけ、初代中村魁車の人となりをうかがえる書簡の調査と撮影を実施できたことは、本研究にとり意義深いものであった。この調査により、魁車の京都における人脈、人的交流を明らかにすることができた。また同時に、大正期に作られたと思われる上方歌舞伎役者を中心とした色紙帖も調査、撮影を行い、分析を実施。その結果、魁車を中心とする色紙帖であることが判明した。加えて、二代目市川右団次の書簡を入手し、その解析を行った。 後述する舞台技術者への聞き取り調査のなかで、各種小道具の附帳を閲覧することができた。この資料はこれまで未発表のもので、近現代上方歌舞伎、特に「関西歌舞伎」時代の舞台技術関係の伝承を明らかにするうえで大変貴重なものである。一通りの閲覧を終え、来年度、本格的な文献調査を行う予定である。 舞台技術者への聞き取り調査は予想以上に物故者がおり、当該研究の速やかな研究推進と重要性を浮き彫りにした。 今年度は小道具方の聞き取り調査を重点的に実施。修行内容や伝承内容・系譜・過程を中心に聞き取り調査を進め、かなりの成果をあげることができた。この調査内容は活字化を終えている。来年度も小道具方の聞き取りを継続するとともに、衣裳方や後見方の聞き取り調査を実施する予定である。 今年度の学術研究成果は論文1本、学術発表1本、招待講演17本である。いずれも本研究成果を反映させた。
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