本年度は研究三ヵ年の二ヵ年目にあたり、具体的な研究事例の調査と成果の蓄積、研究成果の分析と社会への還元を意味する学会発表、各種講座などでの講演を軸に研究活動を行った。 舞台技術者への聞き取り調査は、昨年度同様に鋭意進めているが、特に小道具方の聞き取り調査を重点的に実施した。とりわけ、関西歌舞伎の凋落時代の地方巡業の実態を聞き取ることができたのは、これまでの研究状況からして大きな成果であったといえる。具体的には二代目中村鴈治郎の一座の裏方にはいった関西松竹社員からの聞き取りから、当時の地方巡業時の人的交流や1日のタイムスケジュール、慣習などを聞き取ることができた。また松竹の小道具方であった人物から、昭和36(1961)年8月、毎日ホールにて開催された「上方歌舞伎を護る七人の会」に関して聞き取り調査を実施、この公演のなかで復活された「鯉つかみ」の小道具や仕掛けを聞き取れたことは大きな成果であると考える。ついで、昨年度入手した関西歌舞伎時代の小道具の附帳についてはデジタル化とそのテキスト化を行い、順次、解析を試みている。関西歌舞伎の小道具方の伝承実態の解明にむけ大きく前進できる資料であるため、今後もその分析を鋭意進めていきたい。また関連する成果としては、昭和36年毎日ホールで開催された「上方歌舞伎を護る七人会」のおり、復活した手打ちの小道具の実相を把握することができたことである。研究成果の発信は、学会発表を2本行ったが、特に2010年9月、芸能史研究会9月例会において「ある裏方のみた関西歌舞伎・関西演劇-聞き取り調査の成果を中心に-」と題して、本研究の成果の一部を発表した。席上、演劇評論家の権藤芳一氏より、数多くの助言を賜り、新知見も得ることができた。今後の研究活動に反映させていきたいと考える。本年度の研究成果は関連論文2本の発表、招聘講演32本、学術学会口頭発表2本で、いずれも本研究の成果の一部を反映したものである。特に、研究成果を広く社会に還元するため、依頼された招聘講演・講座では本研究の研究成果の一部を組み込み発表することに努めた。このことは科研費の社会的還元のため有効な成果発信であると考えたからである。
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