三ヶ年にわたる当該研究の最終年度に相当することから、これまでで構築した研究環境と研究蓄積を基盤とし、具体的な考察と成果の発信を、最大の目的とし研究を推進した。 具体的な成果としては、歌舞伎役者の芸談にある伝承関係記事の分析をすすめ、そこから、近現代上方歌舞伎、ひいては歌舞伎の「芸」の伝承について考察をすすめた。 また、上方歌舞伎愛好者への聞き取り調査を、当該研究の補足調査として行ったが、研究者、あるいは舞台関係者が見落としがちな上方歌舞伎の姿、特に技芸や役者の「風」について知見を深めることができたのは大きな収穫であった。 舞台技術者への聞き取り調査については、小道具方へのヒアリングに特化し、戦後の地方巡業に関して、具体的な日程と公演場所、そこでの逸話や、歌舞伎役者の素顔などについて聞き取りを行った。地方巡業については、とりわけ、九州地域における巡業時を軸にヒアリングを実施した。勧進元といわれた興行主の姿や、中日における慣習に関して、様々な逸話をうかがえたのは知見を深めることに、大きく寄与したといえる。 さらに従来、未公開であり、新出といってよい、関西歌舞伎の小道具附帳の調査を鋭意進め、具体的な小道具使用の全貌を把握することができた。小道具附帳はこれまでその所在が不明瞭となっていたこともあり、その全容も明らかではない。その意味においては、将来的にデータ公開を視野にいれ、調査を行い整理を実施した。また毎日ホールでの「七人の会」のおりの小道具附帳も確認でき、関西歌舞伎の歴史のなかで、エポックな興行の、演出面を確認できるうえでも、大きな収穫であったといえるであろう。 これからの研究調査成果については、佛教大学四条センターでの招待講座を中心に、随時、発表することにより、当該研究の公共性を担保するように努めた。とりわけ、平成23年度同センターの講座「歌舞伎の近現代」の1月・2月・3月講座では、関西歌舞伎に特化した講座内容とし、本研究で得た知見や研究成果を盛り込み、研究成果を一般の人々に発信した。
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