本研究課題は、中央アジアにおけるタリーカ(スーフィー教団)の発展と、ムスリム地域社会の形成との関わりに焦点を当て、特にウズベク諸ハーン国時代からロシア帝国統治期におけるその歴史的展開を明らかにするための史料を現地調査で収集し、タリーカの内部構造を解明するとともに、タリーカと政権、民衆との相互関係について分析することを目的とした。 今年度は、第一に、タジキスタン共和国山岳バダフシャン自治州において、未だ民間に所蔵される写本、文書史料の調査と収集を行った。バダフシャン地域は、中央アジア東西間および中央アジアとインドの間の結節点であるが、当該地域におけるイスラーム社会の実態を反映した種々の興味深い史料を発掘することができた。 第二に、イラン・イスラーム共和国において、現代におけるタリーカの活動の調査を行った。イラン領を含むいわゆるクルディスタン地域には、現在でも、ナクシュバンディー教団のムジャッディディーヤの活動が続いており、また、タリーカと相似しつつも自らをタリーカとは別の組織であると見なすアフリ・ハックと呼ばれる集団の活動も見られる。それらに関して、修業活動の撮影を含むフィールド調査を実施するとともに、関連文献の収集を行った。 第三に、本研究課題のテーマに関連して、ウズベキスタンで行われた国際会議において、研究報告を行った。そこでは、収集史料のうち、主にタリーカの師弟関係を明らかにする「免許状」を分析し、19世紀のフェルガナ盆地におけるナクシュバンディー教団ムジャッディディーヤの発展について明らかにした。また、この口頭報告をさらに発展させ、『内陸アジア史研究』に論文として投稿した。 以上のような調査・研究を通して、中央アジアのタリーカの発展に関する一次史料を収集することができ、特にナクシュバンディー教団ムジャッディディーヤの活動に関して、具体的な知見を得ることができた。
|