平成21年度は、江蘇省呉江市、上海市松江区、浙江省湖州市を対象として、(1)民国期~1950年代の郷鎮社会に関する基礎的文献史料-地方新聞、地方档案、地方志-の精査、(2)市鎮と周辺農村部における口述調査を2009年12月に実施し、以下のような成果を得た。 (1) 史料調査はもっぱら湖州市と呉江市の関連所蔵機関で実施し、『呉江日報』(呉江図書館)『菱湖日報』『導報』(湖州档案館)といった地方新聞、『南潯鎮新志』『南潯鎮図志』(湖州図書館)といった地方志、『双林沈氏家譜』『双林姚氏家乗』『竹溪沈氏家乗』(湖州档案館)といった族譜を複写・撮影した。中国建国以前の史料は十分に蒐集できたので、今後は1950年代における社会主義改造、集団化に関する档案史料を集中的に蒐集する必要がある。 (2) 口述調査は、研究代表者が5年間にわたって調査を実施してきた呉江市大長港村を中心として、上海市松江区新陳家村・陳坊橋漁業村で実施し、所期の成果を達成した。大長港村においては、新中国成立以前の地縁組織と無尽講に類似した慣習、土地改革の実態、集団化期における副業や都市-農村関係について詳細な口碑を得ることができた。また、陳坊橋漁業村の漁民に対して、漁業改革、陸上定居、生業と信仰などの実態を具にヒアリングを行った。水上世界の角度から陸上世界を複眼的に解明する上でも重要な作業であると言える。市鎮の社会主義改造に関する聞き取り調査を充実させることが今後の課題である。
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