2010年度は、江蘇省呉江市、上海市松江区、浙江省湖州市、建徳市を対象として、(1)民国期~1950年代の郷鎮社会に関する基本的文献史料-地方新聞、地方〓案、地方志-の精査、(2)市鎮と周辺農村部における口述調査を、2010年12月に実施し、以下のような成果が得られた。 (1)史料調査。湖州市と建徳市の関連所蔵機関で実施し、『菱湖日〓』『導報』(湖州〓案館)といった地方新聞の補充調査、『民国12年建徳県議会議決案』(建徳図書館蔵)などの民国期刊行物の調査・撮影を行った。また、個人蔵の『桐江白雲胡氏宗譜』『堯山塢鐘氏家譜』といった族譜の調査・複写を行えたことも成果である。中国建国以前の史料は十分に蒐集できたので、1950年代における社会主義改造、集団化に関する〓案史料については、具体的な村落に即して収集を継続する必要がある。 (2)口述調査。研究代表者が6年間にわたって調査を実施してきた呉江市大長港村を中心として、上海市松江区陳坊橋漁業村で実施し、所期の成果を達成した。大長港村においては、新中国成立以前の地縁組織と無尽講に類似した慣習、集団化期における副業、市鎮の生活、農村工業について詳細な口碑を得ることができた。また、陳坊橋漁業村の漁民に対して、漁業改革、陸上定居、生業と信仰などの実態についてヒアリングを行った。また、建徳市の山村において、山地や山林の所有・管理・利用に関する慣行や、山村の社会主義改造の実態、改革開放政策後の責任山の状況について予備調査を実施した。
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