2011年度は、江蘇省呉江市、上海市松江区、浙江省杭州市、建徳市、湖州市を対象として、(1)中国建国以降~1960年代初頭の県レベルの地方新聞の調査・蒐集、(2)農漁山村部における聞き取りの補充調査を実施した。現地調査は8月中旬と12月下旬の計3週間を期間として行われ、以下のような成果が得られた。 (1)史料調査。杭州市、湖州市、建徳市の関連所蔵機関で調査・蒐集を実施した。その内訳は、『徳清日報』『徳清報』『安吉日報』『杭嘉湖報』『呉興報』など、中国建国以降にもっぱら県レベルで発行された地方新聞(浙江図書館蔵)の調査及び関連記事の蒐集、『菱湖日報』『導報』(湖州档案館蔵)といった地方新聞の補充調査、上記各地の地方志編纂室や方志館における新編郷鎮志や文史資料など対象地域における関連資料調査である。2010年度までに比して、1950年代における社会主義改造、集団化に関する記事を多く載せた中国建国以降の地方新聞から史料を得ることができたのが、大きな収穫であった。 (2)口述調査。研究代表者が7年間にわたって調査を実施してきた呉江市大長港村と上海市松江区陳坊橋漁業村を中心として実施し、所期の成果を達成した。大長港村においては、抗日戦争期や内戦期における農村生活の実態、中国建国以前の地縁組織と無尽講に類似した慣習の実態、集団化期における副業、1970年代以降の農村工業について詳細な口述資料を得ることができた。また、陳坊橋漁業村や太湖郷漁業村の漁民に対して、漁業改革、陸上定居、生業と信仰(民間信仰とカトリック)などの実態についてヒアリングを行った。また、建徳市の山村において、山地や山林の所有・管理・利用に関する慣行や、山村の社会主義改造の実態、改革開放政策後の責任山・自留山の状況について口述調査を実施した。
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