研究概要 |
本研究は、イギリスの大英図書館(British Library)が所蔵する英国東インド会社トンキン商館文書の分析を通じて、17世紀ベトナム政治史の解明を目指すものである。英国東インド会社は、断続はあるが17世紀後半に北部ベトナム(トンキン)に商館を開設していた。その記録は大英図書館に所蔵され、現在その全てが閲覧可能であり、ベトナムと欧州諸国との交渉や商館員のベトナム社会観察のみならず、それらを通じてベトナムの統治機構や政治権力の所在など多様な情報を含んでいる。商館文書の分析および漢文史料・既往研究との対象により、17世紀ベトナム王朝国家の政権構造を解明し、すでに解明の進んでいる幕府や清朝など同時期の東アジア・東南アジアの新興王権のそれとの比較を行う。 2009年8月に大英図書館のIndia Record Officeに赴き、イギリス東インド会社トンキン商館文書を約2週間にわたって閲覧・調査した。全体の概要確認のほか、とくに商館設置初期の交渉部分について集中的に検討した。その結果、王族・宙官との具体的交渉過程やオランダ東インド会社との関係、通訳の活動などが具体的に判明した。また、同図書館所蔵のフランス語書籍も一部調査をおこなってマイクロフィルムからの紙焼きの形で入手した。そのなかには日本の公的機関が所蔵していない文献(Marini, Histoire nouvelle et cucieuse des royaumes de tongvin et de lao.)も含まれており、今後の活用が期待できる。
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