今年度の研究計画の柱のひとつである[漢人社会の拡散と移動ネットワークの形成に関する基礎研究」に関しては、浙江・江蘇を中心とする地方誌の解読作業を進めた。また、松江・青浦・呉江・平江(蘇州)・昆山において、水利・交通・行政・宗教史跡や地域社会の有力者に関わる史跡、石刻史料などの調査をおこなった。さらに、台湾北部の宋元期遺跡、沖縄本島や久米島の諸グスクにおける現地調査、陶磁器を中心とした出土資料調査をおこない、宋元期と明初期における浙江・福建-琉球(台湾・沖縄)の交通ルートや人とモノの移動の連続性と相違性について考察を進めた。 これらの成果の一部として、主に陶磁器貿易と人の移動の関わりという観点から「匯聚:交流中所形塑的亞洲」國際學術研討會(臺灣故宮博物院)、国際シンポジウム「東アジアの陶磁の道を探る--日本・中国・韓国」(愛知県陶磁資料館)において学術報告をおこない、現在論文化を進めている。 もうひとつの研究計画の柱である「ムスリム社会の拡散と移動ネットワークの形成に関する基礎研究」に関しては、Tarikh-e Vassafなどペルシア語年代記史料の読解をおこない、関連史料の考察を進めた。イランにおいては、Tabriz周辺で石刻などモンゴル期文字資料の収集をおこない、Khuzestan州において海域交流と行政・宗教施設の関連性に関する調査をおこなった。 さらに、テヘラン大学考古学研究所との共同研究として、イラン所蔵アルダビール文書のモンゴル期多言語複合文書の調査をおこなった。一方、内陸ルート経由の東西ユーラシア交通路における人の移動と漢人社会・非漢人社会の関わりという観点から『黒城出土文書』の漢語文書・非漢語文書の読解をおこなっており、モンゴル4ハン国の行政文書様式と東西ユーラシアの移動・交流との関係について考察を進めている。
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