本研究は、中国北朝階唐期における国家支配および地方社会の秩序維持にたいして、仏教信仰の活動および仏教教団がどのような役割を果たしたのかを、石刻史料を通じて明らかにし、当時の為政者や地方社会の成員と、仏教教団の双方がどのような政治的関係にあったのかを考察することが目的である。平成23年度の研究計画では、前年度から引き続き、1.仏教石刻史料の収集とデータ入力、2.唐代の宦官墓誌史料の収集とデータ入力、3.中国での石刻史料調査と情報収集、4.北朝晴唐期の地域社会における仏教信仰および教団の役割、国家との関係を考察、5.山西東南部における唐代の舎利塔銘の銘文に関する論文の作成することになっていた。このうち、1と2については、研究費を利用して、近年中国で大量に刊行されている石刻史料の図書を購入することで、史料の収集とデータ入力を行っている。また、5については、22年度の調査で収集した、清代の山西省長治市の地方志に記された、隋唐期の仏教関連記事の調査を行ったところ、則天武后が行った仏舎利の賜与に関する記事を発見した。これに関しては、従来『資治通鑑』中の記事と敦煌文書にしか史料が無かったが、23年度にその内容を検討した結果、今回の記事によって則天武后の仏教政策をより具体的に明らかにすることができることが分かった。また、この資料では、地方志の中のある寺院の沿革を記した文中にあったことから、この舎利を受け取った側の地方社会のこともある程度明らかになる。現在、この成果を論文として作成中である。この成果は、中央と地方の双方における仏教信仰の政治的役割が明らかとなり、唐代仏教史研究の進展につながるものと評価できる。
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