本研究は植民地期朝鮮の文化運動、なかでも教育、文学、学術、生活改善関係の運動の展開過程とそれに対する総督府権力の監視と弾圧のプロセスを同時に見ながら、運動の担い手と統治者側の双方のリアリティがどのようなものであり、どのような緊張関係をもって存在/展開していたのかをみるところにあった。より具体的な視点としては、次の3つを想定した。 (1)従来の言論史研究の成果を整理・検討し、各種文字メディアを通した文化運動の展開過程を跡付け、その性格について理解する。 (2)官民双方で出された新聞資料、言論統制関係資料、その他治安関係資料を収集し、文化運動(教育、文学、学術、生活改善など)の社会的影響と統治者側の対応について検討する。 (3)朝鮮総督府によって推進された「朝鮮文化」にかかわる政策について、従来の研究動向を把握、整理したあと、朝鮮人社会への影響ないしはそれとの作用関係について分析する。 (1)(2)に関しては、おもに植民地期の言論検閲や出版文化の動向について踏まえ、識字という言語教育の問題と関連付けて考えた。(3)に関しては、解放後への影響も踏まえつつ、朝鮮民話の教科書教材化の政治性について考察した。前者については、著書『朝鮮植民地支配と言語』(明石書店、2010年)に反映し、後者については現在論文執筆中で、2011年度内に刊行される予定である(「三年峠」板垣竜太ほか編『東アジアの記憶の場』河出書房新社、2011年)。また、研究成果について、韓国に出張し、シンポジウム・研究会等で報告した。
|